2017年12月26日火曜日

イスタンブルから〜トルコの地方料理を食べる・地中海地方のハタイ料理


今回は、イスタンブルにあるハタイ料理店の料理をご紹介したいと思います。

ハタイは、トルコの地中海地方の南東にあります。西部が地中海に面しており、南東部はシリアに接しています。



ハタイの歴史は複雑で、シリア領と考えられていた時代を含め、フランス領シリア時代を経て1939年に現在のトルコの一県になりました。

ピンクで塗られた地域が地中海地方

地中海地方は、その名の通り、地中海に面した地域です。その気候は、地中海性気候で、全体として温暖で穏やかだと知られています。そして、乾燥気味で夏には雨が少なく、その反対に冬には相対的に雨量が多く、やや湿っています。

しかし、地中海地方と一言で言っても、一概にすべてが同じではありません。日本の都道府県を見ても、例えば近畿地方にある京都府の南部と日本海に面した北部では、気候が違うのと同じように、地中海地方にも違いがあります。

私が知っている地中海地方東部にあるメルシンやアダナ(どちらもハタイの近くです)などは、日本の夏のように湿気が多くとても暑いです。そのため、夏になると高原にある避暑地で過ごす家族が多くいます。夏になると涼しい所に移動するというのは、かつてのトルコ民族の遊牧民生活の面影が残っているからでしょうか。

ピンクの右端の濃いブルーで塗られた地域が南東アナトリア地方

ハタイは、地中海地方にありますが、すぐ側には南東アナトリア地方(南東アナトリア地方については、前回のブログをご覧ください。https://torukomeshi.blogspot.jp/2017/12/blog-post_17.html)とシリアがあり、そのため、料理にも地中海地方の料理と南東アナトリア地方、そしてアラブ料理が混ざりあった独特のスタイルで、その美味しさは、トルコ国内でもよく知られています。

では、地中海地方の料理とはどんなものでしょうか。

一般的な地中海地方料理といえば、果物や野菜料理が多く、その反対に肉料理は比較的少ないのが特徴です。そして、地中海沿岸部では魚介類の料理も多く見られます。また、エーゲ海地方同様に、オリーブオイルが使われます。しかし、気候と同様に料理にも、その土地によりそれぞれ特徴はあります。

ハタイの食材には、当時のイスタンブルでは、なかなか手に入らなかったサツマイモや、日本で売られているような硬い柿(一般的にスーパーで見かけるトルコの柿は、どうやら渋柿の熟されたものが売られているようです)など、独特のものがあります。ハタイに行った友人からは、よくサツマイモや柿のお土産をいただいていました。

さて、では、今回のイスタンブル滞在中に行ったハタイ料理レストランの話をしましょう。

このレストランにも、やはり地中海料理以外にもフィリキ・ピラヴ(Firik Pilavı:Firikという小麦がまだ若い時期に収穫され乾燥したものを使って作るピラフ)など、南東アナトリア料理も見られました。地中海料理と南東アナトリア料理が混ざり、どちらの美味しい料理もいただけるお店でした。

前菜の盛り合わせ
グリーンオリーブのサラダ
先ず注文したのは、前菜の盛り合わせとオリーブのサラダ。 ハタイの小さいグリーンオリーブは一つ一つ割られていて、塩漬けにされています。あっさりした中にも旨味が多く、際限なく口に入れてしまいます。

前菜の盛り合わせは、もう少し大きなお皿に盛ってほしかったです。せっかくのそれぞれの味が、混ざってしまいました。

イチリキョフテ(içli köfte:挽き割り小麦で作った皮の中にスパイシーなミンチが入っていて、茹でたり揚げたりします)は、茹でたものの方が私は好きです。上の写真のように楕円形のものもありますし、円形にするものもあります。

このイチリキョフテを作る時には、(説明が難しいですが)丸めた皮の生地の中に指を入れ、少しずつ中を広げて空洞にし、その中に具を入れます。皮が薄ければ薄い方が美味しいとされています。揚げたり、茹でている間に皮が割れてしまわないようにするために、作るのが難しいと言われてる料理です。ハタイでは、このイチリキョフテをオルク(oruk)と呼ぶようです。

これが、フィリキ・ピラヴです。
よく見ると、小麦の粒がみえています。新食感で思った程、しつこくなくて美味しかったです。

ケブセ・ピラヴル・タンドール(Kebse Pilavlı Tandır)という料理です。タンドールで焼いた羊肉が乗っています。ハタイでは、Kepse pilavıと呼ばれているようです。

デザートは、もちろんキュネフェ(Künefe)です。フランス料理の揚げ物の衣にも使われている、カダイフという小麦で作られて、素麺を乾燥させたようなものを使います。その間に、塩気のないチーズが入っていて、バターをたっぷりかけて焼きます。焼き上がると、その上から、今度は甘いシロップをジャブジャブとかけます。

私はいつも、シロップは少なめにしてくださいとお願いします。しかし、今回、別の場所で食べたキュネフェには、シロップが別の容器に入って出されてきました。初めて別にシロップがついてきたキュネフェを見ました。だんだん、トルコの人の中にもシロップは、少なめに…という人が増えてきたからでしょうか。

それでも、バターとチーズ、そしてお砂糖一杯のキュネフェは、ダイエットの天敵です。ダイエットなど考えたら食べられません。
さて、これだけいただくとさすがに、お腹が一杯になりました。最後は、やはりチャイか、トルココーヒーをいただき、しめにします。

2017年12月22日金曜日

イスタンブルから〜トルコの地方料理を食べる・南東アナトリア地方料理のケバプ


トルコ料理が話題にあがると、よく「トルコ料理って、シシケバブでしょ。え?シシカバブだっけ?」と聞かれることがあります。トルコ語ではケバプ(kebap)と言い、「焼き肉、焼き物」という意味で、アラビア語が語源です。ケバプという言葉の前にシシや他の言葉がつくとケバブ(kebabı)と変わるのは、トルコ語の文法上のことなので、これはまた別の機会があれば、お話します。

ケバプは、トルコでは、南東アナトリア地方が 有名です。
右下の紺色に塗られている地域が南東アナトリア地方です。

南東アナトリア地方は、シリアのすぐ上にあり、乾燥したステップ気候が特徴です。

そして、料理は、アラブの国に近いため、ケバプ(kebap)のようなアラブ料理の要素がふんだんに取り入れられています。その他、ラフマージュン (lahmacun:ピデより薄い生地の上にミンチなどを乗せて焼いたもの)、チーキョフテ(çiğ köfte:赤身の生肉のミンチとブルグルやスパイスなどを練り合わせて作る料理)などでも有名で、主に羊をメインにした食肉中心の食文化です。

一般的に、南東アナトリア料理は、スパイスがたっぷり入っており、オイリーです。エーゲ海地方や、地中海地方で好まれ、よく使われているあっさりしたオリーブオイルより、動物性の脂が使われます。また、この地方料理の特徴の一つは、ドライフルーツが使われることです。これは、一般的なトルコ料理には、あまり見られない特徴です。

また、この南東アナトリア料理には、辛い、酸っぱい、そして甘いという三つの味が好んで使われます。酸っぱい味には、特にザクロ酢がよく使われています。イタリアのバルサミコに似た色と味わいです。そして、 甘い味といえば、何といっても甘いシロップがたっぷりかかったお菓子のバクラヴァやキュネフェなどがあげられます。( Arif Bilgin, Özge Samancı,'Türk Mütfağı'

ということで、今回は、南東アナトリア地方が有名なケバプ料理のお店に行ったことを書こうと思います。

前菜やサラダなど
先ず、冷たい前菜や、イタリアンパセリ、ルッコラーなどが運ばれてきます。ここから好きなものを選びます。お店によって、前菜の数や種類はいろいろあります。

選んだ前菜


選んだ前菜は、茄子のサラダ、クルミとザクロ酢がたっぷり入ったサラダ、茄子やパプリカなどの野菜を揚げてトマトソースで和えたもの。


そして、イタリアンパセリとルッコラーと、白チーズ。このように、緑の葉ものにレモンを絞り、むしゃむしゃと食べます。

最初に前菜と一緒に出てくる焼きたてのパンは、ピタパンのように中が空洞になっています。


このパンは、お変わり自由で、その都度焼きたてが出されます。美味しいからといって、食べ過ぎると、その後のメインが食べられなくなるので要注意です。

メインのケバブには、アダナケバブとシシケバブを注文しました。
アダナケバブは、日本のつくねのように、羊のミンチ肉に辛みを加えこねてから串につけ、焼いたものです。地中海地方の東端で、南東アナトリア地方の隣にあるアダナという地方の有名な、辛いケバブです。南東アナトリアのケバブではありませんが、ケバブというとアダナケバブは必須です。

トルコに旅行に来たヨーロッパの人が、このアダナケバブをたいそう気に入り、一度に5人前も頼んで食べたと聞いたことがあります。本当でしょうか。


メインのケバプと一緒に、ラヴァッシュというパンがついてきます。小麦のトルティーヤのようですが、トルティーヤより弾力があると思います。

このラヴァッシュにお肉や、最初に頼んたイタリアンパセリなどの葉ものを一緒に巻いて食べると美味しいです。
果物はサービスで出てきます。
ケバブ屋さんでは、食事の後に季節の果物がサービスされることが多いです。

デザートには、小麦粉で作られたお素麺のようなものを焼いて、その上に甘いシロップがたっぷりかかったカダイフとアイスクリームを注文しました。

トルコアイスというのをご存知の方もいらっしゃると思います。私たちが知っている、アイスクリームと違い、サクズ(sakız)というガムを作る時に使う樹液が入っているため、粘りが強く、ナイフで切らないと食べられません。



このように、ナイフで切っても落ちません。そのぐらい粘りが強いです。そして、トルコのアイスクリームには、卵が入っていないので、私たちの知っているバニラアイスではなく、白いアイスクリームはミルクの味です。


甘いカダイフにミルク味のアイスクリームを塗って(ソースになるようにうまく溶けてくれません)食べると、これまた美味しいのです。

トルコに来る前には、食事の後にデザートを食べるという習慣はありませんでしたが、トルコ料理をがっつりいただくと、最後にデザートを食べないと食事が終った気持ちになりません。この自分の変化が面白いです。

一番最後には、好みの味のトルココーヒーでしめになります。私はいつも、サーデ(お砂糖が入っていない)を頼み、口の中の甘さを流しすっきりさせて終わりにします。
あ〜美味しかったです!

2017年12月1日金曜日

イスタンブルから〜トルコの地方料理を食べる・黒海のピデ




黒海は、ピデでも有名です。ピザのように生地を伸ばして具を乗せ、かまどで焼いたものです。

イスタンブルにいて、よく耳にしていたのは「トラブゾン・ピデ」でした。黒海のトラブゾンという街の名前がついたピデです。

しかし、同じ黒海地方のピデでも、地方によって生地が柔らかかったり、薄かったり厚かったり、ピデの具を乗せてから上に生地を被せて焼いたり、形も舟形から円形までと、作り方も形も様々です。

トルコの田舎ではよく見られる風景ですが、パン釜がある家では自家製のパンを焼いています。黒海地方でも例外ではなく、朝から火をおこし、先ず最初にピデを焼き、その後、火が落ち着いてから、パンを入れて釜のドアを閉めて焼いていました。最後に火が弱まってから、乾パンを作るために、焼いたパンをスライスして、再度、釜に入れ、ドアを閉めて次の日まで置いておきます。

焼きたてのピデは、ご近所さんたちに配られるのが習わしでした。こうして、村では自分の家で頻繁に釜に火をいれなくても、ご近所さんたちが持って来てくれた熱々のピデを食べることができたのでした。(Mustafa DUMAN 'Trabzon-Maçka'da, 1950-1960 Yıllaır Arasındaki Geleneksel Mutfak Kültürü', M Sabri Koz ' Yemak Kitabı I Tarih-Halkbilimi-Edebiyat') 

自分の家に釜がなくとも、ご近所の釜に火が入るときは、ピデのやパンの生地を持参すれば、釜を使わせてもらえるのです。この習わしは、町のパン屋にも受け継がれていて、街角のパン屋さんに自家製のピデの具をもっていけば、お店のピデ生地にその具を乗せてお店の釜に入れて焼いてくれました。料金は、ピデの生地代だけでした。これ以外にも、練り胡麻(タヒン)とお砂糖を持参すれば、お店のパン生地にそれを練り込んでくれて、デニッシュに似たぐるぐる巻き様のパンを焼いてくれるパン屋さんもありました。できたてのパンとお店の職人たちの優しさが伝わってきて、本当に美味しかったです。

今回のイスタンブル滞在では、友達が、私にどうしても食べさせたいピデ屋さんがあると連れて行ってくれました。しかし、彼女のお気に入りの黒海出身の職人さんがいなければ、行っても仕方がないと言うので、その職人さんがいるのを確認してから行きました。

上の写真に大きく写っているのが、私が食べたピデです。その場で焼きたてが頂けます。具にも種類があり、チーズ、ミンチ肉、卵とバターなどが選べます。チーズのピデは、その地方のチーズが使われるため、味にも変化があると聞きました。私は、ミンチ肉のピデに卵を入れてもらいました。もちろん黄身は、トロッとさせてくださいとの細かな注文にも気さくに応じてくれます。

大きいですが、生地が薄いのでペロリと一枚たいらげてしまいます。以前、別の場所で食べた同じ黒海地方の丸い形のピデは、もっと生地が厚かったですが、ここのピデは薄皮でお腹にももたれませんでした。 もう半分ぐらい食べられたように思います。

その作り方を動画でご覧ください。





トルコにいると、何を食べても美味しいので毎回食べ過ぎて「あ〜お腹いっぱい!」と思わず言葉がもれてしまいます。

2017年11月28日火曜日

イスタンブルから〜トルコの地方料理を食べる・黒海の郷土料理


イスタンブルに行くと、トルコの色々な地方料理を食べるのも楽しみの一つです。
今回は、黒海地方の郷土料理をご紹介します。

■薄いブルーで塗られた地域が黒海地方
トルコは日本の2倍の国土を持ち、7つの地方に分けられています。その1つに黒海地方があります。黒海地方は、東西に長く、トルコ北部の黒海に面したアナトリアの殆どの地域が、この地方に入ります。


黒海沿岸部からすぐに山岳地帯が立ち上がるのが黒海地方の特徴
黒海地方は、海岸部に並行して険しい山脈が走る地形を特徴としています。西側の地域は、地中海気候に属し、夏は雨が少なく乾燥し、冬には相対的に雨量が多いのが特徴です。それに対して、東側は温暖湿潤気候に属し、1年を通して雨量が多く、そのため、黒海地方と言えばトルコでも豊かな緑の土地として知られています。

タバコやお茶の栽培が盛んに行われており、日本のような段々畑形式の茶畑も見られます。

フンドゥック(fındık:ヘーゼルナッツ)も有名ですし、トルコ 映画の名前にもなったバル(bal:蜂蜜)でも有名です。しかし、黒海地方の特産物と言えば、農産物のムスル(mısır:トウモロコシ)と、海産物のハムシ(hamsi:カタクチイワシ)です。

ムスル(mısır:トウモロコシ)は、19世紀にコーカサス地方からの移民が持ち込んだものだそうです。Arif Bilgin, Özge Samancı,'Türk Mütfağı'

黒海地方の料理には、この特産のムスル(mısır:トウモロコシ)やハムシ(hamsi:カタクチイワシ)を使った料理がたくさんあります。ハムシのピラフやパンやピデ(pide:薄く伸ばした生地に具を置いて焼いたピザのようなもの)まであります。

黒海料理の特徴としては、胡椒と砂糖を一緒に使ったり、お漬け物を温かい料理にすることなどがあげられます。( Arif Bilgin, Özge Samancı,'Türk Mütfağı'

私は、初めて黒海地方に遊びに行ったとき、そこで食べた料理の美味しさに衝撃を受けました。
黒海料理のレストランの料理
今回のイスタンブル滞在でも、黒海料理のお店に行く機会があり舌鼓をうちました。
その美味しい料理の数々について書きたいと思います。

カララハナ・サルマス
先ず、注文したカララハナ・サルマス(kara lahana salması:黒キャベツの巻物)は中身に、私が地中海地方出身の友人のお母さんに教えてもらった、ミンチとお米を入れて作るサルマと違う食材が入っています。

黒海地方のサルマには、トウモロコシの砕いたものと羊肉を細かく切ったものが入っています。ブルグルという挽き割り小麦をいれることもあるようです。(Mustafa DUMAN 'Trabzon-Maçka'da, 1950-1960 Yıllaır Arasındaki Geleneksel Mutfak Kültürü', M Sabri Koz ' Yemak Kitabı I Tarih-Halkbilimi-Edebiyat') 


ファスリエ・トゥルシュス・カヴルマス
そして、ファスリエ・トゥルシュス・カヴルマス(fasulye turuşusu kavurması:モロッコインゲンのお漬け物の炒め物)。これは、モロッコインゲンのお漬け物を、タマネギと一緒に炒めたものです。お漬け物といっても、酸っぱい料理ではありません。浅漬けを使うのでしょうか。
この料理にジャガイモを加えることもあるそうです。(Mustafa DUMAN 'Trabzon-Maçka'da, 1950-1960 Yıllaır Arasındaki Geleneksel Mutfak Kültürü', M Sabri Koz ' Yemak Kitabı I Tarih-Halkbilimi-Edebiyat')


チーズフォンデューのように伸びるムフラマ
黒海料理を食べに行って、必ず注文するのはムフラマ(muhlama:コーンミールをバターで炒めてチーズも加えたもの)です。黒海地方に旅行した時、何も知らずに注文して食べたムフラマの美味しさに感動しました。硬めのチーズフォンデューのようです。

黒海地方のマントゥ
このレストランでは、マントゥがありました。黒海地方にマントゥ…と、不思議に思い注文したら、私の知っている皮で包まれて湯がいたものではなく、具は皮でロールされてオーブンで焼いたものにヨーグルトがかかっていました。初めて頂きましたが、これはこれで美味しかったです。

サルマにしろ、マントゥにしろ所変われば、同じ名前でも色々と違うものです。

黄色く四角いのはトウモロコシのパン
トラブゾン・エクメックのスライス
上の2段にある丸いパンがトラブゾン・エクメック
黒海のパンといえば、ムスル・エクメック(mısır ekmek:トウモロコシのパン)とトラブゾン・エクメック(Trabzon ekmek)があげられます。トウモロコシのパンは、アメリカのコーンブレッドのようです。ちょっと硬くてパサパサというかポロポロしているので、好き嫌いが別れると思います。
トラブゾン・エクメックは、フランスのカンパーニュというパンに似ています。ずっしりと重いパンですが、厚め皮はパリッと、中はしっとりとして美味しいです。黒海以外でも、トラブゾン・エクメックと言う名で売られているものがありますが、黒海地方で使われている小麦、水そしてパンを焼くために使われている薪が違うために、同じ味にはならないそうです。(Mustafa DUMAN 'Trabzon-Maçka'da, 1950-1960 Yıllaır Arasındaki Geleneksel Mutfak Kültürü', M Sabri Koz ' Yemak Kitabı I Tarih-Halkbilimi-Edebiyat')

牛乳の入った優しい味のラズ・ボレーイ
葡萄ジュースで作られるペペチュラ
ラズ・ボレーイやリゼ・カダイフなどのデザート
 デザートには、ラズ(ラズ人:黒海の東部からジョージア国境付近くに住む民族)やリゼ(黒海の街の名前)などと、黒海地方にちなんだ名前がつけられています。
黒海色豊かな名前のデザート
今回は食べなかったのですが、メニューに載っていた料理の中で、興味がひかれたのは、「ハムシキョイ・ストラジュ(Hamsi köy sutlacı)という名前のデザートです。ストラッチというのは、ライスプディングのことなのですが、ハムシキョイ、イワシ村のライスプディングという意味になります。村の名前にまで登場するイワシ!面白いです。そして、このデザートには普通入らないサフランが入っているようです。白くない黄色いライスプディングなのでしょう。サフランは黒海地方のサフランボルという所で、昔はたくさん取れたそうです。サフランボルという名前は「サフランがたくさん」という意味です。料理名や使われている材料からも、興味深いことがたくさんあり、どんどん膨らんでいきます。

話をもどして、今回頂いたデザートは、私は大好きな、ミルクの入った優しい味のラズ・ボレーイ(Laz böreği) と、友人が勧めてくれて初めて食べたペペチュラ(pepe çura)でした。ペペチュラは、葡萄のジュースにコーンスターチを入れてとろみをつけて冷やしたものです。あっさりして、どちらも美味しかったです。

パンから、料理、デザートまでトウモロコシは、黒海料理には欠かせなく大活躍です。

今回、ただ1つ残念だったことは、イワシのピラフがなかったこと。季節ものらしく、今回は食べられませんでした。次回は、是非とも…。

2017年11月22日水曜日

イスタンブルから〜ロカンタ(食堂)とメイハネ(居酒屋)で食べる〜


ロカンタ
メイハネ








ブログを書くにあたり参考資料を読んでいると、現在のイスタンブルでの食の変化について書かれている興味深い記事がありました。
「…特に1980年代より現れ始めた現象がある。以前は、ロカンタ(lokanta:食堂)、メイハネ(meyhane:お酒の飲める店)、そして、カフヴェハネ(kahvehane:喫茶店)は、それぞれ別々の種類の店だったものだが、今日ではヨーロッパスタイルのカフェバー・レストランという名前のもとで、この3つの種類の店が1つにまとまっている。紅茶やコーヒーが飲める場所で、アルコールもオーダーできる。食べたければ、デザート類もほしいものがメニューから選べる。…」(Artun ÜNSAL 'İstanbul'un Lezzet Tarihi

この記事を読み、今日、イスタンブルの街のどこにでもあるカフェバー・レストランは、以前はそれぞれ違うタイプの店だったのだと、妙に納得してしまいました。

そこで今回のブログでは、カフェバー・レストランではなく、昔からあるトルコの食堂であるロカンタと、お酒の飲めるメイハネについてご紹介したいと思います。

ロカンタ(食堂)で食べる


ロカンタは、日土辞書には、食堂や料理店として訳されていますが、もともとは「旅館」を意味するイタリア語のlocantaが語源になっています。私がイスタンブルで暮らしていた時には、本当によくお世話になりました。

ロカンタのショーケース
スープから、サラダ、メイン、デザートまで、いろんな料理がおばんざいのように並べられています。それらの美味しそうな料理をあれこれと眺めながら、好きなものを選びます。素朴な家庭料理から、作るのがなかなか面倒な手の込んだ料理まで何でも揃っています。 たくさんの種類を食べたければ、それぞれ半人前という注文の仕方もできます。自分の好みで特別にひよこ豆をピラフの上にかけてほしいなと思うようなとき、それも、少しだけとか、たっぷりとか、さらにスプープもかけてほしいとか、本当に細かい注文も聞いてもらえます。

お盆を持ち並んで注文する
ロカンタは、基本的にセルフサービスで、自分でお盆を持って並ぶので、混雑するお昼どきなどは、後ろの人を待たせないために、早く選ばなければなりません。そんなときは、食べたいものがたくさんありすぎて、今日はどれにしようかと、なかなか決められず焦ります。
写真下の赤い部分は全部メニュー
料理の値段が高めのロカンタもありますが、一般的には安くて美味しく、学生や働いている人たちの頼もしい味方です。毎日通っても食べ飽きることがないほど、多種多様なメニューが揃っています。

選ぶのに悩みます
並んでいる料理の多くは、トルコ語でスルイエメック(sulu yemek)と呼ばれる汁物の煮込み料理です。トルコの友人と外国旅行に出かけたとき、食事にソテーやグリルばかりが続くと、きまって彼(女)らは、このスルイエメックが食べたいと言い出します。トルコの人たちは、好んでパンを汁物に浸して食べる習慣があるからでしょうか…。
私が選んだのは、サラダ、ほうれん草の巣ごもり卵、アンカラタヴァー(ピラフのように見えますが、お米ではなくパスタとお肉を炊いたも)
塩胡椒だけでなく、唐辛子とタイムも机置かれています

このロカンタの料理ですが、実はイスタンブルにおいて19世紀中葉から20世紀初頭にかけて大きな変化を遂げました。「トルコスタイル」の料理に加えて、「ヨーロッパスタイル」の料理が登場するようになりました。このヨーロッパスタイルの料理は、宮廷に最初に持ち込まれたものが、イスタンブルに居住しているイスラム教徒ではない外国人やトルコ人の富裕層に徐々に受け入れらたものです。

ヨーロッパスタイルの料理(この場合、ヨーロッパスタイルとはもっぱらフランス料理を意味します)をおもに出すロカンタの登場しました。このような店には、ヨーロッパスタイルの料理法を身につけた料理人が雇われていました。これらの店のメニューには、ヨーロッパ式のコンソメ、ガランティーヌ、牛フィレ肉、ヴァニラムースなどの料理が並んでいましたが、それでもアーティチョークのオリーブオイル煮など、伝統的なイスタンブル・スタイルのトルコ料理もいくつかは残されていました。(Artun ÜNSAL 'İstanbul'un Lezzet Tarihi

ところが、このロカンタで出される料理は、時代がさらに進み、現代になると、ふたたびトルコ料理中心へと変わりました。トルコ・ナショナリズムの一つの現れといえば、言い過ぎでしょうか。でも、興味深く思います。
  ほかにも、オスマン帝国の衰退によって、宮廷料理を作っていた料理人たちの中で宮廷を解雇された者たちが一般市中に流れ、彼らが作る手の込んだトルコ料理がロカンタのメニューを豊かにし、市井の人々にトルコ料理を再評価させたことも関係しているかも知れません。その証拠に、今日、ロカンタで広くみられる料理には「皇帝のお気に入り」という名前の料理もありますから。

メイハネ(居酒屋)で食べる


さて、次はメイハネをご紹介したいと思います。土日辞書には「酒場、バー」と記載されています。酒場やバーというとお酒がメインのように思えますが、メイハネの特徴は、たくさんの前菜と一緒にお酒を飲むことができるところにあります。もちろん前菜ではないメインの料理もありますが、前菜の種類の多 さには目をみはるものがあります。

イスタンブルのヨーロッパサイドにあるタクシムという繁華街には、じつに多くのメ イハネが並んでいます。オスマン時代にも、ギリシャ人、ユダヤ人、アルメニア人などのイスラム教徒でない人たちが住んでいる地域には、たくさんメイハネが ありました。彼らにとって、メイハネはワインを飲む場所だったのでしょう。

しかし、昔のメイハネはもっぱら男性のたまり場だったので、トイレも男性用しかなかったそうです。(Murat BELGE "Yemek Kültür~tarih boyunca")

トルコ人の友人たちは、よく「メイハネにはラクを飲みに行く」と言います。(ラクについては、こちらをご覧ください。http://torukomeshi.blogspot.jp/2017/04/blog-post_17.html)  私は、このアニスの香りのラクがどうも苦手なので、メイハネでは、いつもワインを飲みます。メイハネでは、ラクやワインを飲むのですが、ビールはといえば、カフェバーで飲むことが一般的です。面白い棲み分けがあるのです。

お酒と一緒にいただく前菜は、今日は、たっぷり中皿一杯の分量が運ばれてくるのですが、かつてはずっと少ない量だったようです。その上、注文した料理が、お客が食べ終わるのを見計らって、順にテーブルに運ばれてきました。話に花を咲かせながら、ゆっくりとラクを楽しんだのです。

メイハネでは、じつにたくさんの種類の前菜を楽しむことができます。これらの前菜には、冷たいものと温かいものがあります。注文の仕方は、まず、冷たい前菜を注文し、つぎに温かい前菜へと移ります。前菜だけでお腹がいっぱいになり、メインにたどり着けないこともよくあります。そのうえ、パンは食べ放題ですから…。

今回のイスタンブル滞在では、アジアサイドのカドキョイにあるメイハネに行きました。以下は、そのときに注文した料理です。


メイハネのショーケース
まず、ショーケースに並んでいる28種類の冷菜から、levrek marine(スズキのマリネ)、patlıcan salatası(茄子のサラダ)、fava(空豆のビューレ)、deniz börülcesi(アッケンソウという塩生植物のオリーブオイル炒め)を注文しました。(写真下が注文した冷製です。ただ、右端にあるドライトマトの前菜の名前は、書き忘れてしまいました。)
選んだ前菜5種類

温かい前菜
その後に、温かい前菜のpaçanga böreği(中にトルコの生ハムとチーズを巻いて揚げたもの)も追加しました。(写真上)

メイン料理には、魚も肉もありますが、私たちはイワシのソテー(写真上)を選びました。トルコでは小振りのイワシが一般的なので、このメイハネでは、開いたイワシを2匹合わせて焼いていました。魚料理には、たいがい新鮮なルッコラーと生のタマネギが添えられます。ルッコラーの苦さと生タマネギの辛さが、イワシの脂にマッチしてとても美味しいです。

昔は男たちの場所だったメイハネも、今では女性同士のグループがたくさん見受けられるようになりました。それでもまだ、一生アルコールを口にしたことがないという男女たちはトルコに大勢います。お神酒と称してお酒を神聖化する日本人や、イエスの血としてワインを尊ぶキリスト教徒たちとは、お酒に対する考え方がずいぶん違います。

とはいえ、仲間と一緒に美味しい前菜をつまみながらワイワイとお酒を飲むことは、私にとって大切な時間なのです。だから、イスラム教徒が95パーセントもいるトルコが、世俗主義の国是を守って、お酒が飲める国であることは、私にはとても嬉しいことです。これがいつまでも続くことを祈ります。