チキンスープで炊いたお米の上にチキンを乗せたピラウ |
先ず、少しだけ、その歴史をお話したいと思います。
ピラウのレシピは、オスマン時代、15世紀にアラビア語で書かれた料理本をŞirvani(シルヴァーニ)という人がトルコ語に訳した本の中に記載されています。アラビア料理の本だと思われていたのですが、訳す時にŞirvaniがトルコ料理のレシピを付け足してしまったのです。(Stefanos Yerasimos 'Sultan Sofraları〜15. ve 16. Yüzyılda Osman Saray Mutfağı') グリム童話のようです。
ムラット2世の時代、まだイスタンブルがコンスタンティノーブルとよばれ、東ローマ帝国の首都だった頃に書かれたこの作品には、アーモンドとチキン、そしてサフランと砂糖が入ったMuzafferiye pilavı(ムザフェリエ ピラウ)と、肉とひよこ豆、そして、スパイスを入れて作られたkabuni pilavı(カブニ ピラウ:羊肉を使い、クミンとシナモンで風味をつけたレシピを見つけました)のレシピが載っています。
お米は、当時高価なものだったので18世紀まで庶民の食卓には、あまり登場しませんでした。しかし、宮殿での宴などでは、ご馳走として登場していました。(村ではブルグル、都会ではお米と、最近まで言われてきていたのが、これから分かります)前回のブログでも、書きましたが当時ピラウは、スプーン、それも木のスプーンで食されていました。
そして、宮殿では、ピラウ専門の名人たちがいて、赤い帽子をかぶるか、紺のシャルヴァル(Şalvar:モンペのようなズボン)を履いていました。それだけ、ピラウには特別な思いがあったのだと思います。そのピラウの伝統が現在でも、トルコ料理の中に受け継がれています。(Yunus Emre Akkor 'Osmanlu Mutfağı〜Gelenekten Evrensel〜)
では、現在のピラウの話に戻りましょう。
美味しいピラウの形容には「このピラウは、ターネターネ(tane tane)で美味しい」という表現が使われます。taneは粒という意味があり、ここでは、一粒ずつがパラパラに仕上がっている、という意味の賛辞になります。
タンドールで焼いた羊肉を乗せた、トマトソース味のピラウ |
日本で作った、イワシのピラウ。松の実とカラントが入り、オールスパイスやシナモンで風味付けします。 |
上の写真でお盆に乗っているのが、ムール貝のピラウです。ムール貝の殻に入っていて、レモンをぎゅっと絞っていただきます。道ばたで売られている場合もあり、立ったまま食べ、食べた個数の代金を支払います。
私の持っている『Osmanlı Mutfağı』 (Tuğrul Şavkay, Osmanlı Mutfağı)というレシピ本には、25種類のピラウの作り方が記載されています。その中で、お米意外のピラウは5種類だけでした。
この本にも、別の『Osmanlı Mutfağı』(Yunus Emre Akkor 'Osmanlu Mutfağı〜Gelenekten Evrensel〜)にも「Sütlü Pilavı」というピラウのレシピがあります。「牛乳のピラウ」です。
作り方は、牛乳でお米を炊くだけです。しかし、炊きあがったお米をつぶさないように混ぜるのがこつだそうです。そして、そのお米の上に、お砂糖とシナモンをかけていただくと書いてあります。ストラッチ(sütlaç)という名前のデザート、ライスプディングがありますが、デザートではないのに、牛乳で炊いて砂糖をかけて食べる…。この「牛乳のピラウ」は、ヨーグルト粥より衝撃的でした。
このように、バラエティ豊富なピラウですが、一番作るのが難しいと言われているのは、やはり何も入っていない、お米とバターだけでつくるプレインなサーデピラウ(sade pilav) です。何でも、シンプルなものは、かえって難しいのだと思います。
作り方には、2種類あり、一つ目は、最初にさっと洗ったお米をバターで炒めて、その上に水を入れて、炊くという方法です。二つ目は、塩水につけて おいたお米をザルでこしてから、炒めずにバターと水を加えて炊くという作り方です。私は、いつも最初の作り方をしていました。
アルパ シェフリエが入ったピラウ |
テル シェフリエが入ったピラウ |
作り方はさておき、トルコで、友人宅にお呼ばれした時など、ピラウと別のおかずを、同じお皿に盛っていいのか、別々のお皿に盛るのかと聞かれることがあります。各自それぞれに、好みがあるのでしょう。細やかな気遣いだと思います。
そして、「もうパンを食べなくていいから、ピラウを食べなさい」と、よく言われていました。関西地方に、お好み焼き定食や、焼きそば定食のような炭水化物+炭水化物の定食があるように、トルコでも、ピラウがあっても、必ずテーブルにパンはあります。
何度も書いていますが、ピラウはおかずで、主食はパンです。それなので、日本だと「お米を食べないと、お腹が一杯にならない」と、よく聞きますが、トルコの友人たちは「パンを食べないと、お腹が一杯にならない」と言います。ピラウでは、お腹に溜まらないのだそうです。所変われば…。
自分の食べたい料理を選んでお皿に盛ってもらいます。これにパンがつきます。 |
一番上に写っている細長いのも、釜から出たばかりでホカホカのパン。 |
でも、どのように食べても、やっぱりピラウは美味しいです。そのため、つい食べ過ぎてしまうのが、要注意なのです。