2018年2月27日火曜日

バラエティ豊なピラウの種類〜主菜として愛される〜

チキンスープで炊いたお米の上にチキンを乗せたピラウ
ピラウの話にまた、戻ります。
先ず、少しだけ、その歴史をお話したいと思います。

ピラウのレシピは、オスマン時代、15世紀にアラビア語で書かれた料理本をŞirvani(シルヴァーニ)という人がトルコ語に訳した本の中に記載されています。アラビア料理の本だと思われていたのですが、訳す時にŞirvaniがトルコ料理のレシピを付け足してしまったのです。(Stefanos Yerasimos 'Sultan Sofraları〜15. ve 16. Yüzyılda Osman Saray Mutfağı') グリム童話のようです。

ムラット2世の時代、まだイスタンブルがコンスタンティノーブルとよばれ、東ローマ帝国の首都だった頃に書かれたこの作品には、アーモンドとチキン、そしてサフランと砂糖が入ったMuzafferiye pilavı(ムザフェリエ ピラウ)と、肉とひよこ豆、そして、スパイスを入れて作られたkabuni pilavı(カブニ ピラウ:羊肉を使い、クミンとシナモンで風味をつけたレシピを見つけました)のレシピが載っています。

お米は、当時高価なものだったので18世紀まで庶民の食卓には、あまり登場しませんでした。しかし、宮殿での宴などでは、ご馳走として登場していました。(村ではブルグル、都会ではお米と、最近まで言われてきていたのが、これから分かります)前回のブログでも、書きましたが当時ピラウは、スプーン、それも木のスプーンで食されていました。

そして、宮殿では、ピラウ専門の名人たちがいて、赤い帽子をかぶるか、紺のシャルヴァル(Şalvar:モンペのようなズボン)を履いていました。それだけ、ピラウには特別な思いがあったのだと思います。そのピラウの伝統が現在でも、トルコ料理の中に受け継がれています。(Yunus Emre Akkor 'Osmanlu Mutfağı〜Gelenekten Evrensel〜)

では、現在のピラウの話に戻りましょう。
美味しいピラウの形容には「このピラウは、ターネターネ(tane tane)で美味しい」という表現が使われます。taneは粒という意味があり、ここでは、一粒ずつがパラパラに仕上がっている、という意味の賛辞になります。

タンドールで焼いた羊肉を乗せた、トマトソース味のピラウ
日本で作った、イワシのピラウ。松の実とカラントが入り、オールスパイスやシナモンで風味付けします。
ピラウには、日本の炊き込み御飯のように、たくさんの種類があります。何も入っていないお米とバターだけで作るサーデ(sade:プレイン)から、トマト、茄子、ショート パスタなどが入っているものもあります。また、オールスパイスやシナモン、ハーブで風味をつけて、松の実やカラントと一緒に炒め、レバーの入ったものや、 ムール貝のピラフなど、実に様々なものがあります。
上の写真でお盆に乗っているのが、ムール貝のピラウです。ムール貝の殻に入っていて、レモンをぎゅっと絞っていただきます。道ばたで売られている場合もあり、立ったまま食べ、食べた個数の代金を支払います。


私の持っている『Osmanlı Mutfağı』 (Tuğrul Şavkay, Osmanlı Mutfağı)というレシピ本には、25種類のピラウの作り方が記載されています。その中で、お米意外のピラウは5種類だけでした。

この本にも、別の『Osmanlı Mutfağı』(Yunus Emre Akkor 'Osmanlu Mutfağı〜Gelenekten Evrensel〜)にも「Sütlü Pilavı」というピラウのレシピがあります。「牛乳のピラウ」です。

作り方は、牛乳でお米を炊くだけです。しかし、炊きあがったお米をつぶさないように混ぜるのがこつだそうです。そして、そのお米の上に、お砂糖とシナモンをかけていただくと書いてあります。ストラッチ(sütlaç)という名前のデザート、ライスプディングがありますが、デザートではないのに、牛乳で炊いて砂糖をかけて食べる…。この「牛乳のピラウ」は、ヨーグルト粥より衝撃的でした。

このように、バラエティ豊富なピラウですが、一番作るのが難しいと言われているのは、やはり何も入っていない、お米とバターだけでつくるプレインなサーデピラウ(sade pilav) です。何でも、シンプルなものは、かえって難しいのだと思います。

作り方には、2種類あり、一つ目は、最初にさっと洗ったお米をバターで炒めて、その上に水を入れて、炊くという方法です。二つ目は、塩水につけて おいたお米をザルでこしてから、炒めずにバターと水を加えて炊くという作り方です。私は、いつも最初の作り方をしていました。

アルパ シェフリエが入ったピラウ
私がトルコ在中に食べていた一般的なピラウというと、お米だけでなく、お米のような形をしたアルパ シェフリエ(arpa şehriye)か、素麺を短く切ったようなテル シェフリエ( tel şehriye)というパスタが入ります。先ずそれを炒め、茶色に色づいたら、米を加えて炒めてから、水を加え、塩胡椒で味付けして炊きます。

テル シェフリエが入ったピラウ
日本に戻ってからは、日本のお米を使って、この作り方をすると、芯が残ったりパラパラにならなかったりで、うまくいきませんでした。そこで、炒めてから炊飯器で炊くことを思いつきました。こうすると、失敗せずにパラパラの美味しいピラウが出来上がります。試してみてください。



作り方はさておき、トルコで、友人宅にお呼ばれした時など、ピラウと別のおかずを、同じお皿に盛っていいのか、別々のお皿に盛るのかと聞かれることがあります。各自それぞれに、好みがあるのでしょう。細やかな気遣いだと思います。



そして、「もうパンを食べなくていいから、ピラウを食べなさい」と、よく言われていました。関西地方に、お好み焼き定食や、焼きそば定食のような炭水化物+炭水化物の定食があるように、トルコでも、ピラウがあっても、必ずテーブルにパンはあります。

何度も書いていますが、ピラウはおかずで、主食はパンです。それなので、日本だと「お米を食べないと、お腹が一杯にならない」と、よく聞きますが、トルコの友人たちは「パンを食べないと、お腹が一杯にならない」と言います。ピラウでは、お腹に溜まらないのだそうです。所変われば…。

自分の食べたい料理を選んでお皿に盛ってもらいます。これにパンがつきます。
ドネルケバブもピラウの上に乗せてもらうことができます。この店では、その上下にラヴァッシュという薄いパンで挟まれて、出されました。やはり、パンは必ずつきます。

一番上に写っている細長いのも、釜から出たばかりでホカホカのパン。
私たちには究極の食べ方としか思えない、パンにピラウを挟んで食す、ピラウのサンドイッチとでもいうべき食べ方も、ごく稀に聞いたことがあります。

でも、どのように食べても、やっぱりピラウは美味しいです。そのため、つい食べ過ぎてしまうのが、要注意なのです。